蛋白質高速シミュレーション開発プロジェクト

SAAP力場

単一アミノ酸ポテンシャルの重要性

 ポリペプチドはアミノ酸が多数連結した鎖状の高分子であり,アミノ酸の共重合体と考えることができます。SAAP力場の基本的な考え方は,まず,ペプチド分子を各々のアミノ酸ユニットに分割することから始まります。 いま,ペプチド結合を切断して,ペプチド分子をアミノ酸のフラグメントに分解したとしましょう。このアミノ酸フラグメントは,単独ではどのようなコンホメーションをとろうとするでしょうか。量子力学に基づいた高精度の分子軌道計算をおこない,そのポテンシャル面(Ramachandranマップ)を求めてみました。下図(左)は,水中のアラニンについての結果です。水中では,アラニンは青色で示したコンホメーションを取りやすいことを示しています。青色の濃い領域が,αへリックスとβシードの構造に一致していることに注意しておきましょう。 さて,以上のようにして求めたアラニンの単一アミノ酸ポテンシャルと,実際の蛋白質中に存在するアラニンの構造を比較したところ,両者がほぼ一致していることが明らかになりました。下図(右)のボルツマンプロットの結果を見てみると,水中のポテンシャルを用いると蛋白質中のアラニンの構造はほぼランダム(直線関係)に分布していることがわかります。この結果は,蛋白質の進化やフォールディング問題とも関係しており,蛋白質のもつ注目すべき特徴の一つです。

SAAP力場とは

 単一アミノ酸の水中ポテンシャルと蛋白質立体構造とが強く相関しているとすれば,これを用いて蛋白質やポリペプチドの分子シミュレーションを高精度かつ効率的にできる可能性があります。このような着想から,力場プロジェクトSAAPが開始されました。SAAPとは,単一アミノ酸ポテンシャル(Single Amino Acid Potential)の略であり,その基本式は以下に示すとおりです。従来の力場ではポリペプチドを原子にぶつぶつに分解して考えているのに対し,SAAPではポリペプチドをその基本構成要素であるアミノ酸に分解して考えます。また,溶媒効果を予め力場パラメーターの中に取り込んでいるために,ポリペプチドと水分子との相互作用を考える必要がなく,水中の高速シミュレーションが可能となりました。

特徴

側鎖分離近似

 アラニンやグリシンでは側鎖の回転を考慮する必要はありませんが,その他の多くのアミノ酸は長い側鎖をもち,側鎖の内部回転も考慮する必要があります。このような場合,主鎖と側鎖の内部回転をまともに考慮すると,単一アミノ酸ポテンシャルは4次元,5次元,あるいはそれ以上となり,そのSAAPパラメーターの作成には途方もない計算量が必要となります。そこで,下図に一例を示すように,主鎖と側鎖を分離し,まずそれぞれのパーツのポテンシャル面を量子化学計算により求め,次にそれらを組み合わせることによって単一アミノ酸の多次元ポテンシャルを表現することを考えました。この近似を側鎖分離近似と呼び,SAAP力場ではこのような近似を実際に採用しています。

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